学振申請書(文系)の書き方(の一例)

 研究者を目指す方の登竜門である日本学術振興会特別研究員(いわゆる学振)。私は周囲のサポートのおかげで運良く採用された(DC1・社会学)わけですが、その経験を踏まえて、申請書の書き方について自分なりにまとめてみようと思います。

 私のような人文社会系の申請書となると、その書き方について公にアクセスできる情報が少ないのではないでしょうか。学振申請書作成は情報戦的な要素もあると思いますので、そうした情報格差を埋めるためにも、この記事が役に立てば幸いです。

 ※なお、リスク管理の観点から私の申請書自体を公開するのは控えます。御所望の方がいらっしゃいましたら、twittergmailの方まで、御所属とお名前を添えてお気軽に御連絡下さい。PDFファイルでお送りいたします。

 

1.総論

(1)はじめに

 学振(特に実績があまり問われないDC1)は、正直運の要素も強いと思います。私もまだまだ見習い研究者ですし、書き方についてアドバイスするなんておこがましいと思っています。ここで書くことはあくまでも採用された一例としてお読みいただければと思います。

 (2)人的資源の重要性

 学振に受かるかどうかは、周りに科研費を当てまくっている先生がいらっしゃるor学振に内定している先輩がいらっしゃって、相談できる環境にあるかどうかがかなり重要になってきます。採用者が都市部有名大学に集中してしまうのはそうした事情があるのでしょう。つまり、「優秀な研究者に申請書を見てもらう」という作業が重要になります。私の場合、科研費採択実績が多い先生7名くらいに見ていただきました。修士課程を過ごした立命館大学は先生と学生の距離が近く、環境としては恵まれていたと思います。

 (3)書き方の基本原則

 申請書の中身については、①何をやるのか、②なぜその研究をやる必要があるのか(その研究をやるとどんな良いことがあるのか)が端的に分かるように書くことが原則となります。一読してこの点が分からなければ、評価は低いものになってしまうでしょう。

 ①を詰めることが研究計画の精緻化につながり、②を詰めることが、依って立つ先行研究群の明確化や研究の学術的意義の明確化につながります。

 (4)説明責任

 学振研究員の給料と研究費は、税金でまかなわれています。DC1の場合、3年で1000万近くの税金が投入されることになります。税金を投入することは即ち、その妥当性について一般国民に対して説明責任が発生することにつながります。極端な話ですが、国会等のオフィシャルな場面で、その研究に対して税金を投入した妥当性を問われた場合、端的にそれに答えられるようでなければならないということです。その場合、「よく勉強している」ということは必要条件ですが十分条件ではありません。繰り返しになりますが「その研究をやってどんな良いことがあるのか」を端的に答えなければなりません。それを常に意識してください。

 

2.各論

 それでは、申請書の各項目別にどのように書けばよいかを解説していきます。

■.現在までの研究状況

(これは賛否両論あるところですが)可能な限り注意書きに忠実に書きましょう。次のような注意書きがあります。

①これまでの研究の背景、問題点、解決方策、研究目的、研究方法、特色と独創的な点について当該分野の重要文献を挙げて記述してください。

②申請者のこれまでの研究経過及び得られた結果について、問題点を含め①で記載したことと関連づけて説明してください。なお、これまでの研究結果を論文あるいは学会等で発表している場合には、申請者が担当した部分を明らかにして、それらの内容を記述してください。

この注意書きについて、自分は以下の四つにクラスタリングして項目を立てました。

 

≪これまでの研究の背景≫

 ここでは、当該研究が求められる社会的背景について、学術的知見を引用しながら書きました。世の中にはこういう問題がある(といわれている)、だからその問題に取り組むために当該研究が必要である、といった感じです。

 ≪問題点、解決方策≫

 ここでは、前の項目で述べた社会的背景について、どういった研究が提出されており、そうした研究が問い残しているものは何なのか、ということを書きました。ここは非常に重要です。仮想敵としている先行研究がぼやけていると、研究全体の存在意義が疑われます。先行研究のポイントをしっかりと書き、何が不足しているがゆえにどのように誤った結論を出しているのか、恐れずに書いてください。そして問い残されている問題に取り組むために、自分はこういう着眼点(あるいは調査対象物)に焦点を当てる、という流れです。

 ≪研究目的、研究方法、これまでの研究経過及び得られた結果≫

 ここでは、研究目的、研究方法をそれぞれ一文で書きました。そして研究経過を厚めに書いた上で、その問題点に触れておきました。ここで問題点に触れることで、後の項目で、今後の研究を進める妥当性の論証がしやすくなります。

 ≪特色と独創的な点≫

 ≪問題点、解決方策≫で書いた先行研究の問題点に紐づけて記入すると分かりやすいと思います。(あまりフレーズにこだわるのはマニュアル的でよくないですが)「(先行研究の)前提の再検討を促し」とか「~する可能性を拓いた」とかいうフレーズに乗っかるように、これまでの研究やることによって、(社会的あるいは学術的に)こんな良いことがありましたよ、ということを端的に書きましょう。

 

■.これからの研究計画

(1)研究の背景

 やはり注意書きに忠実に書きましょう。

2.で述べた研究状況を踏まえ、これからの研究計画の背景、問題点、解決すべき点、着想に至った経緯等について参考文献を挙げて記入してください。

 私の場合、以下の二つにクラスタリングしました。

≪研究計画の背景/着想に至った経緯≫

 前の項目で伏線を貼っておいた「これまでの研究の問題点」を回収します。「問題点」を踏まえて、今後どのような研究が展開されなければならないか、ということを要約的に頭出しして記述しました。

 ≪問題点、解決すべき点≫

 「問題点」に関連してどういった先行研究があるのか、先行研究では足りないところはどこか、それを補うためにはどういった調査をする必要があるのか、ということを具体的に記述するとよいでしょう。

(2)研究目的・内容

 今後の研究については、研究A、研究Bといったようにいくつかの研究プロジェクトに分けて書かれる方が多いかと思います。ここで注意しなければならないことは、そうしたプロジェクトを通して結局何がしたいのか、ということを、最初に一文で書くことです。

 

≪研究目的≫

 何を明らかにするのか、という研究の終着点を一文で書きましょう。その上で、そのために個々の研究プロジェクトがどういった役割を果たすのかということをそれぞれ端的に述べます。

 ≪研究方法・内容・計画≫

 ここでは研究プロジェクトの詳細について述べます。私の場合は、【研究タイトル】【研究方法】【研究内容】に分けて書きました。【研究タイトル】は、研究内容が一目で分かるようなもの。【研究方法】は「何を」「どういった方法で」調べるのか一文で書きました。

 【研究内容】については、これからの研究なので書き方に悩むところです。私の場合、「何を明らかにするのか」「先行研究の状況」「予想される論点」「研究の際の着眼点」を盛り込みました。計画とは言いつつも、ある程度筋道が見えている感じを出した方が、読んでる方は研究内容をイメージしやすいと思います。

  

 繰り返しになりますが、研究計画を書く場合、「何がしたいの?」「それをやるとどんな良いことがあるの?」という問いの答えが、一目で分かるような記述を心がけてください。

 

■.研究の特色・独創的な点

 この項目はけっこう悩みました。というのも、DCの場合、これまでの研究の延長として今後の研究が展開されていく場合が多いと思いますので、特色と独創的な点は自ずと「これまでの研究」のそれと似通ってしまうからです。といっても、それ自体は大きな問題ではないと思います。私が見た範囲の採用申請書も、この点は「これまでの研究」の該当箇所と似通っていました。ただし、この項目には紙幅が比較的あるので、「どの学術的分野に」「どういった貢献があるのか」ということを具体的に記述できるとよいでしょう。加えて、社会的意義についても具体的に記述できると望ましいと思います。

 

■.年次計画

 私はこの項目に、博論の章立てと、各章についていつ取り組むのかを明記しました。あとは、年度ごとに、「どの資料を集め」、「どの学会に発表し」、「どの雑誌に投稿するのか」について固有名詞を入れて淡々と記述しました。

 

 以上、簡単にですが私の学振合格体験記です。加筆修正事項があれば随時更新いたします。繰り返しになりますが、申請書自体を御所望の方または御質問がある方はtwitterまたはgmailまでお気軽に御連下さい。