「サラリーマンのメディア史」完結

2020年ももうすぐ終わりですので、今年度の業績を振り返っておきたいと思います。まだ未刊行の論文もありますが、以下の通りとなります(筆頭著者の論文のみ)。


「戦前期における職員層の複眼的な理解に向けて―『サラリーマン』『知識人』『消費者』」 2021.3 『ソシオロジ』(200)


「1950年代及び60年代におけるサラリーマンイメージの変容過程―東宝サラリーマン映画のメディア史的研究」2020.10 『三田社会学』(25)


「修養主義から心理主義へ―1980年代以降のビジネス雑誌が語る上昇アスピレーション」 pp.97-108 2020.7 『年報社会学論集』(33)


「サラリーマン雑誌の<中間性>―1980年代における知の編成の変容」pp. 105-123 2020.7 『マス・コミュニケーション研究』(97)


それぞれの論文が年代別になっていて、通して読むことで「サラリーマンのメディア史」が通覧できるようになっています。


正直何の役に立つのかは微妙なところですが、確実に一つの歴史を紡いだという自負はあります。これらの論文を統合して博士論文を書くのですが、おそらく、「サラリーマン」の歴史をその初めから終わりまで一気通貫できる本邦初の作品になるかと思います。


かつ、大衆メディアを扱ったことが大きな特徴です。サラリーマンの学歴構成や賃金、競争環境等の「実態」と併せて、各年代の大衆メディア(雑誌や映画)等で描かれたサラリーマンの「メディア効果」を、当時の批評や読者投稿、製作者の語り等の一次資料から明らかにしました。その意味で、「サラリーマン」の社会的な位置づけ(=「イメージ」)の変遷を辿ったものとなっています。このあたりが歴史学ではなく社会学っぽいところですかね。


客観的な統計資料を押さえるのは大前提ですが、その上で、大衆メディアで描かれた「サラリーマン」を取り巻く言説を掘り起こしたことで、「サラリーマンはどのように捉えられていたのか」あるいは「サラリーマンは何を求めていたのか」といった問いにも応えることを試みました。


「サラリーマン」という言葉は、大正の終わりごろに生まれ、昭和の終わりとともに終わったので、「もう一つの昭和史」ともいえそうです。


今は統計的手法を中心に研究を行っているので、ずいぶん違うことをやっているような気もしますが、一応、エビデンスに基づいた「メディア効果論」として私の中では一貫しているということにしています。